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中国ネタ(その1)(平野)

金曜日の朝、目が覚めたら身体が金縛りになったように動かなかった。

無理やり身体を起こそうとしたら激痛が走り、寝返りも打てなかった。早朝にクライアントとの会議があったので、どうしても出社しなければならないのに、これではどうしようもない。激痛の中、携帯電話を何とか手繰りよせ、参加できないと電話を1本入れてから、すごい時間をかけて着替えをした。当時住んでいたマンションは、同じような30階建てのマンションが15棟ほど建っている敷地の一番はずれにあり、タクシーを拾うのに守衛が立っている正面エントランスまで普段の足取りで5分ほど歩かなければいけなかった。静かな環境が良いと思って一番奥の棟にしたのだが、それが今となっては災いのもとになっているのに、その時初めて気づいた。21階からエレベーターに乗り、後悔しながら守衛のところまで、すごい時間をかけてゆっくりと歩き、タクシーを拾って事務所にたどり着いた。秘書を電話で呼び出し、一緒に病院に向かった。

海外旅行者保険が費用の面で高額になるため、事務所にかけてもらえないので、いつも地元の総合病院に行く羽目になる。一般の駐在者は、清潔で設備の整った外国人専用病院へ行くので、きっと中国の病院の本当の恐ろしさを知らないと思う。日本の病院とはあらゆる面で、特に清潔さという面において顕著ではあるが異なっている。

まず、病院に行くと総合受付の窓口に行き、自分の名前と生年月日、診察を受けたい科を伝え受付表のようなものを発行してもらう。それを持って会計窓口に行き、お金を支払い、受付表に支払い済みのスタンプをもらう。その際に、日本でいうところのお薬手帳のような雑誌も同時に購入する。通称、「病歴(ビンリー)」と呼ばれていて、これに医者が診察時にいろいろと記載してくれる。一種のカルテのようなものだ。中国の病院では必ず、先にお金を払い、そのうえで次のステップを踏むという手順を取る。診察料金の踏み倒しを防止するという医院の経営からいえば、当然の対策である。

次に、受付表と病歴を持って診察を受ける科の先生がいる部屋に行く。学校の教室くらいの大きさの部屋の片隅にデスクトップパソコンが載った机に向かって座っている医師が居り、その周りを囲むように診察を受けたい人がひしめき合っている。まるでバーゲン会場のような雰囲気だ。医師は患者を丸椅子に座らせて、診察をしている。周りには大勢の人が取り囲んでいる。受付表と病歴を握った右手を差し出して、それを医師が受け取ってくれた人が、次に診察を受けることになる。秘書が身代わりにこの立場を受け入れてくれて、自分はぼろぼろの体で教室の隅に立ったまま、待っていた。休憩する椅子というものが見当たらないからだ。

ようやく順番が来て診察を受けるための丸椅子に座って、医師の診察を受けることとなった。医師は2,3質問をし、それに答えていると、医師は反対を向いてパソコンの画面に向かいぱちぱちと入力を行い、受付表を打ち出しした。それを自分の目の前に差し出し、血液検査を受けて来いといった。ここまで待っていた時間は何だったのか、無意味な時間という言葉は、このためにあるのかと思った。また、受付表を手に持ち、会計窓口に行き、支払いを済ませスタンプを押してもらい、血液検査を行う窓口に向かった。

窓口でスタンプを押した受付表を差し出すと、右手の人差し指を出せと言われた。いわれた通り人差し指を出すと、窓口の看護婦は自分の指をつかんで指の腹を上に向け。画鋲みたいな小さな針を指に突き刺した。痛いと思って反射的に指を引っ込めようとしたが、きつく握られているので、どうにもしょうがなく、空けられた穴から血がにじみ出てきた。それを看護婦は白い綿棒で拭い、指を突き返してきた。どうやら、これが血液検査ということらしい。消毒された様子もなく、ああ恐ろしや。別の中国人スタッフにこの話をしたら、画鋲でまだ好いじゃないか。自分は小刀で切られて、1週間ほどパソコンが打てなくなったことがあるということだった。